あるライスファンの七年半

ライス

私がライスというコンビの存在を知ったのは2009年2~3月くらいの話だが、その直前の年末までは全くお笑いというものを知らなかったので、短期間でけっこうなのめり込みっぷりだと思う。

なぜライスまでたどり着いたかというと、きっかけはやはりしずるだった。

オリエンタルラジオを知り、あっという間にファンになったが、当時の彼らは芸人人生いちのどん底時代。
ちょうどその頃 THE THREE THEATER が猛威をふるって、と言っていいほどの人気を博しており、オリラジの二人が猛烈にライバル視していた中に、同期のはんにゃ、フルーツポンチと並んで、一期上のしずるが含まれていた。

しずるには AGE AGE LIVE で見た「田沼さんが転んだ」のネタで惚れた。
好き、とかじゃなくて、惚れた、のレベルだったと思う。
だから、ライスが気になった。

しずると仲がよく、合同トークライブのケチャップナイトはいつでも即完。
並んでカリカ率いるユニット、シュール5に呼ばれ、調べれば調べるほど、田所仁の評判がすごい。

第一回単独ライブの「マフェ&バザバザ」、神保町花月本公演の「籠の城」、そしてシュール5での田所仁プロデュース公演。

これは絶対追いかけなきゃいけないやつだ、とその時確信していたわけではたぶんなかった。
でも気になってしょうがなかったのは、たしかな事実。
その年の4月にはライスのライブに足を運ぶようになった。

けれど、その直後に、私はとんでもないものを逃してしまったのだ。

「関町死亡ドッキリ」といえば、聞いたことがある人もいると思う。
2009年4月28日に行われたライスのシチサンライブ。
わたしは一週間後に配信で見た。

今になっても、あれほど大掛かりで大胆で、そしてとんでもないドッキリを見かけたことすらない。

すごい企画だった。
コーナーの出番待ちをしていたゲスト全員を「関町さんがライブに来る途中に事故で急死した」と言って騙したのだ。
MC役だった元ジューシーズ松橋さんを除いて。
田所さんは、コーナー前でいったん引っ込んだ際に聞かされたという設定だった。

ゲスト全員、信じられないしすごい悲しい、でも田所さんのフォローをしなきゃならないし、なにも知らない(というていの)お客さんは笑わせなきゃいけない。
言葉に何も出さないのに、ものすごいドラマが各人の中に見えた。

どうしてあんなことを、不謹慎にならずに、エンターテイメントとして成り立たせられるんだろう。
ライブに行かなかったことをあんなにも後悔したのは、後にも先にも初めてだった。

でも、そんな後悔があったからこそ、私は「ライス」に会いたい、とああも強く思い続けられたのかもしれない。

その後しばらくライブに行っても、ライスはこんなもんじゃない、私はまだ本当のライスに会っていない、と、まるでうわごとのように呟き続けていた。

ライスはまだか、と思いながらライブに通ううちに、しかしすっかり私はライスのファンになってしまった。
だってネタは面白いし二人はかわいい。

2009年8月の「旅行記」というライブなんて最高だった。
二人で大島に日帰り旅行したVTRを流すだけのライブ。
関町さんの引きが強すぎてめちゃくちゃ笑ったし、二人の笑顔や青い空になんだか切なくもなった。

私がようやくライスの片鱗をつかまえたのは、その二ヶ月後のことだった。

なんと、関町さんがピンネタライブ「エビス」をやるというのだ。
囲碁将棋根建さんとの同時開催。
チケットを取った時は、怖いもの見たさ以外の何物でもなかった。
それが、あんな思いをさせられることになるなんて。

構成も演技もすごかった。すっかり魅入ってしまった。
ライスより田所仁より先に、関町知弘にノックアウトさせられるなんて想像もしていなかった。

田所仁に惚れたのはそこからさらに二ヶ月後、2010年1月。
シュール5の年始公演「田所仁とお正月」だった。

前年の同公演がめちゃくちゃ話題になっていたので、とても楽しみだったし期待していた。
こんなにハードル上げて大丈夫だろうか?と不安になってしまうくらい。

終わってみればまったくの杞憂だった。

「今年はこれで終わりでいいや」、嘆息することしかできなかった。
まだ正月なのに、まだ三が日なのに。

もちろんシュール5という気心知れた優秀な演者あってこそだろう。

しかし出演者も、客席の私たちも、ただ彼の手のひらで転がされていただけではなかったか?
どこまでが計算で、どこからが偶然だったのか?

「田所先生」と呼ぶ気持ち、「脳味噌を見てみたい」と言わしめた力、全てがすんなりと腑に落ちた。

あっけなく落とされた私は、それまで以上に精力的にライブに通うようになった。
そして、さらに忘れられないライスをいくつも見た。

まずは、翌月のシュール5本ネタ公演。
田所さんが書いたユニットコント「パイプ椅子の歴史」。
あんなにブラックでホラーで、そしてウワアっとなるコントには、もう一生出会えないかもしれない。
だってもうカリカは、林さんはいないから。
六年経っても忘れられないあの台本が、一度きりで封印されたことが本当に信じられない。

そして2010年4月の神保町花月本公演「雨プラネット砂ハート」。
これもいいライスだった。いろいろ語りたくさせられるライス。

同じ神保町では7月の「テルニ」も大好き、の一言では言い切ることができない。
ライスの二人、そして松橋さんの壮大な悪ふざけ。
翻弄されて、楽しかったなあ。

そんな寄り道を挟みつつ、ついに「ライス」に会うチャンスがやってきた。
大阪の京橋花月で、これまでのベストネタを集めた単独ライブをやるというのだ。

……え、大阪?

なぜ大阪なんだろう、ともちろん思ったけれど、行くことにした。
……してよかった。本当によかった。

2010年9月12日。日曜日。

当時は大学生だったから、夏休みを利用した一人国内旅行中だった。
九州から鈍行乗り継ぎ、山陰を通って関西へ。
京都でライスファンの友達と合流し、そして大阪へ。

今でもあの日の緊迫感を思い出すなあ。
とうとうライスに出会える、って思ったら、緊張で吐きそうでしょうがなかった。

そこまでの期待があったから、一瞬でもモヤモヤさせられたら終わりだ、とも思っていた。
けれど、そんなこっちの勝手な感傷を、ライスの二人は全部吹っ飛ばしていった。

ただ面白いんじゃない。
ただ笑えるんじゃない。

笑いながら、泣きたくなる。
憧憬や、郷愁や、友情とか愛憎。
いくら言葉を探そうとしてもうまく見つからない。

その日以来、私は自分のことを「ライスファン」だと言えるようになった。

ファンになってからも、ライスには何度も何度も射抜かれた。

2010年11月の劇団乙女少年団「ピンクの指輪ちゃん」、翌年1月の神保町花月本公演「ぶす」。
(どちらもダブル主演の片翼、関町さんが素晴らしかった。)

仙台まで車で日帰り遠征したシュール5ツアーに(田所さんが体調不良で欠席した不思議なライスだった)、4月、花吹雪の中繰り広げられた「シュール5VS花やしき」(晩春の夜の夢)。

それから一年後、2012年4月神保町花月本公演の「エクセレント!!」(ライス裏表)。

さらに一年と少し後、2013年7月にはまたとんでもないライブもあった。
ライスの10周年記念単独ライブ「スイップ」だ。

東京グローブ座、そしてポスターにもなった二人の衣装。
まさに豪華絢爛といった感じで、二人の節目の式をお祝いしているようだったなあ。
……十年目は、錫婚式と呼ぶのか。
錫のように美しさと柔らかさを兼ね備えて、と。

それから、三年間の空白、もとい充電期間。
今思えば、ライスはこの間、かなりキングオブコントに照準を合わせたネタづくりをしていたんだな。

ブロードキャスト!!との定期ライブ「ライスドキャスト」。
KOCを見据えてと言いきった「money」。
そして直前には「ネタを試したり調整したりするライブ」。

同時に、幕張や大宮でもネタを磨いていたみたいだ。
「なんで行きにくいところばかりでやるんだろう」と文句をいうだけで、後日語られるまで、そのことが彼らにあんなにも大きな影響を及ぼしたなんて思いもしなかった。

そして、2016年10月2日。
キングオブコントの決勝戦。

ライスはついにやり遂げた。
記念すべき9代目の王者となった。

これをきっかけに今までとは違う桁で、ライスを知る人は増えると思う。
知るだけでなく、もう一歩踏み込んでくれる人もきっとたくさんいるだろう。

私が、ただのファンだけれど、そんな人たちに伝えたいのは、ぜひ「ライス」に「出会って」ほしいということ。

本番当日は全然冷静に見られていなかったけれど、キングオブコントでやったネタ、二本ともとても素敵だった。
とくに一本目のラスト、銃が主の手に渡ってからの高まる緊張感、そしてふっとほどけるオチ。
最高だった。

あのネタだから、あんな安心させられるようなオチだったけれど、ライスはやるよ。
あそこでとんでもないところに飛ばされて感情がくがく揺さぶるようなこと、平気で連発してくるよ。

でも別に、そんな見方じゃなくたっていいのだ。
フックだってそんなところじゃなくていい。

例えば設楽さんがめちゃくちゃ褒めてたな、とか、田所さんの驚き顔がマンガみたいだったな、とか、よく十三年解散せずにやってきたな、とか何なら、ともるかわいい!(関町さんのご子息)とかでもいいから。

だから、「もっとライスを知りたい!」と思う人が、一人でも多く生まれますように。

その、はまってくれた誰かが、もし仲間を見つけたくなったりしたら。

ぜひこのブログを訪ねてほしい。
そして、あなたとわたしが出会ったライスについて、朝が来るまで、語り合いましょう。

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