「8月の秘密」と「お日柄もよく」

ライス

外に出るのもうんざりするほどの日差し。立ち込める蒸し暑さ。
気が遠くなるほど青濃い空に、白を何重にも塗り重ねた入道雲。
うるさいほど泣きわめく蝉の声。

……八月になると決まって思い出すものが二つ。

THE BACK HORNの「8月の秘密」という曲と、ライスの「お日柄もよく」というコント。

思い出すたび大声で泣きたくなるこの二つを、自分勝手に重ね合わせました。

※ ライスのコントのネタバレを含みます。未見の方はご承知おきください。
また、お日柄もよく、は一回しか見れていません。細かいところ、もしかしたら違っているかもしれません。ご容赦ください。
歌詞の後に、勝手な解釈をつけています。

***

「こんな儚いのに
離れてしまうのか
息をひそめる
君の鼓動感じてた」

儚い、というのは、君の存在そのもの。
この世に無くなって、記憶、あるいは幽霊という極めて儚い存在として現れたのに、それすら永遠でない、また離れなければならないという。

息をひそめる君の鼓動、も君。
かくれんぼで隠れて姿は見えないけど、鼓動だけは感じられた。
でも、鈴(りん)の音とともに、それもふっと消えちゃったんだろう。

「黒こげ ぼうくうごう
秘密の夢見たね
青空 猫の死骸
友達の消えた夏」

黒こげぼうくうごう。

コントから遡ること数年、あるいは十数年、二人の子どもの頃の記憶。
無傷じゃないけど、たしかに自分たちを守ってくれた秘密基地の成れの果て。
二人きり。

青空があって、猫の死骸が転がってて、そこで見た秘密の夢。
きっと、不謹慎で、疚しくて、もしかしたら少し恥ずかしいこと。
見上げれば怖いほど青空で、目を落とせばぞっとする死が横たわり、だから君から目を離せない。
君にしか、話せない。

もう君のことを、ただの「友達」だなんて呼べない。

なのに、あの夏、君は消えた。

「あくびのせいだよと
いったのに笑われた
「うそつき」せみの声が
えいえん 鳴り止まない
大人はやさしい顔
すべてを奪ってゆく」

君がいないから涙が出る。
幻でも君に会えて嬉しいから涙が出る。

君は何も聞かないけど恥ずかしいから「あくびのせいだよ」ってごまかす。
君は何も言わないけど全てを知ってるように優しく笑う。

君は何も言わなかったのに「うそつき」、非難する声がきこえる。

うそ、空耳、あれは蝉だ。

蝉の声がうるさいから耳をふさぐ、目をふさぐ。
君の姿が見えない。

あの日の大人のように、僕たちからぼうくうごうを奪ったあの大人のように、君は僕から奪われる。

「うそつき、」……あれは僕の声だ。
どこにも行かないって言ったのに二回も勝手にいなくなった、裏切られた僕の声だ。

「こんな儚いのに
離れてしまうのか
息をひそめる
君の鼓動感じてた」

あの日のぼうくうごう。

息をひそめた、鼓動を感じるほど近すぎた、二人だけの秘密。

「きれいで汚なすぎた
悲しいあの秘密は
誰にも言えないから
君に会いたくて泣いた」

青空、猫の死骸、君との秘密。
君から目を離せない、君にしか話せない、八月の秘密。

君に会いたくて泣いた。あくびのせいなんかじゃなくて、泣いた。

「こんな儚いのに
離れてしまうのか
息をひそめる
君の鼓動感じてた
「また会えるから」と
踏切の向こう側
遠く伸びる影
まばたき一つせずに」

「君が見つからないから
かくれんぼ終わらない
あの日の ぼうくうごう
いないいないばぁ
ここにいるよ」

また会えるって言ったのに、隔てたのはただの踏切のはずなのに、君はいつまでも見つからない。

だから、きっと、これはかくれんぼの続き。
さっきまで二人で遊んでいた、かくれんぼの、続き。

……本当は気づいているけど。

記憶の中にしか、もう君はいないこと。

***

「8月の秘密」は変な曲です。
本人たちも「いきなりサビから始まるし、あいうえお作文が入ってるし変な曲」って言ってる。

短調と長調が入り混じって、不穏で不完全で、落ち着きどころがない。
「防空壕」に引きずられるけど、間違いなく別離の曲だけど、たぶん戦争ではない。

子どもの頃に、親の事情で引き離された友達との思い出、と読むのがおそらく一番自然。
でも再会できてないってところに、奥行きとやるせなさをとてつもなく感じる。

君はほんとにいなくなってしまったか、全く別人になり変わってしまったか。
いずれにせよ、明るい未来がちっとも見えない。
「思い出」として消化できてない。

なんとなく、ただの別れじゃなくて、死のにおいを強烈に感じる。

歌詞にでてくる「踏切」は、死と生を別つ「開かずの踏切」に思える。

夏と戦争と、蝉の声と消えた君。

……に、鮮やかにライスを呼び起こされました。
「お日柄もよく」の二人には、冗談に紛らわしきれない、澄み切って澱んだ過去があったような気がします。

私はそれを、「8月の秘密」と、こっそり呼びたいのです。

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