ライス単独ライブ「グラン」(2018/7/7,8)

ライス

ライス単独ライブ「グラン」
2018/7/7,8 CBGKシブゲキ!!
出演:ライス

2018年のライスの単独ライブは「グラン」でした。
前年の「ブラン」から一文字ちがい。

意図してか、せずか。
意味がないわけないのだけれど、そんなことは語ってくれない彼ら。

唯一わたしたちにもたらされたのは、たっぷり詰まった90分が三回きりの公演と、ふたりが作った絵本だけ。
絵を描いたのは田所さん。
お話を書いたのは関町さん。
「大きくて、美味しいもの」と、小さくなってしまったライスのふたり。
とてもかわいくて、おしゃれで、すこし奇妙な隣の世界。

このイラストに導かれるように、ライブは始まりました。

「違います、お客様。わたくしどもが売っているのは『夢』なのです。
大きくて食べきれないほどのケーキ、部屋いっぱいに広がる絨毯みたいなステーキ、ときには素敵な女性の服の中にもぐりこんだりなんかして、この一見、延長コードの差し込み口に見えるものが、そんな世界への入り口だったとしたら」

この一見、単独ライブのオープニングコントに見えるものが、ふたりが仕掛けた極上の罠だったとしたら。

いえいえただの仮定です。
あのライスのすばらしい単独ライブ「グラン」はお客さんの万感の拍手をもって、もう二週も前に終演しているのですから。
でも、今この日常。
わたしたちが過ごしている生活。
本当に、あの「グラン」の前と同じものですか?
自信をもってそう、言えますか?

わたしは確信がありません。
ふわふわとした幸せに包まれたあの二日間。
いくらでも別の世界に転がり込む余地があったように思うのです。

でも……それなら、それでかまわないかな。
願わくば、この新しい世界にも、小さなふたりがこっそり紛れ込んでいますように。
大きな、美味しいものが食べられますように。

夏の始めの蒸し暑い空の下、また彼らの単独ライブが開催されますように。

では、
コントの感想をすこしだけ。

ある日の二人

部屋でくつろぐ田所、そこに帰ってくる部屋の主の関町。

「おかえり、携帯見つかった?」
「ううん、駅からここまで全部見たけど落ちてなかった」
「そっかー。あ、わりい、勝手にビール飲んじゃった」
「いいよいいよ、飲んでよ」

よく入り浸っているのか、まるで自分の家のようにふるまう田所。
そしてそれをよしとする関町。
けれど、事態は。

「勝手にシャワー浴びちゃった」
「いいよいいよ、浴びてよ」
「勝手にパーカーも借りちゃった」
「……いや。それはダメだろ」

あるあるだよね、こういう関係。というところから、突然スポットライトを当てられる田所の特異性。
サイコパスじゃ、と疑いたくなるほどの他人の感情への不理解。
しかし、結局はそれもよしとしてしまう関町。
二人にこれまで何があったのだろう。

「俺、いいことがしたいんだよね。関町に別の誕生日プレゼント買ってやるよ」
「いいっていいって。もう店もしまってるし」
「今はネットでいつでも買えるだろー」

ラストはあまりにさらっと流れるので、わたしは3公演めまで「関町さんが何を許したか」に気がつきませんでした。
気づいてしまえば、それまでに見た他のコントも合わせて、ふたりの関係がより一層興味深くなりました。

……こんな関係をよくえがいていたのは、トップリードのふたりでした。
ライスに生きているよ、というのをどこかの、誰かに伝えたくなった。

状況証拠

よくある探偵の推理ショー。

「この山荘で起きた連続殺人事件。その犯人は、あなた、山川さんです!」
「へ、何の証拠があってそんなセリフを」
「証拠ならあるんです。山川さん、あなたの職業は」

……芸人じゃありませんね?

ただただ田所さん演じる山川さんのキャラクターがいとおしい。
渾身のギャグは跳ねずに、意図しないところでばかり笑われる。

ライスは喫茶店でネタの相談をするそうです。
二人で頭をつきあわせて「これならウケないかな?」「うん、絶対すべるね」そんなことを言い合ってけらけら笑ってたんだとしたら、声にならなくて頭を抱えたくなるくらい。

事件を解決に導くための推理が、山川氏の職業あてクイズに微妙にすり替わる。
見ているわたしたちは「何かがおかしいな」と思いながら、結局最後には事件も解決しているから、「まあいっか」と終わらせてしまう。

ある種の物悲しさを残して。
あなたたちはそうならなくてよかった、と安堵のため息を吐きながら。

1回目の公演からどんどんブラッシュアップされました。
こんな風にネタを磨くのだなあと、そんなところも興味深く見ました。

いじめ

とてもシニカルなネタ。
現代の様々な状況に照らし合わせると、そら恐ろしくなるようなキャラクター設定。

いじめられっ子を救いにきた教師が、一番無自覚な刀を振りかざして回るという。

それでも、笑える。
脅威のバランス力だと思う。
「ちゃんと言い返せる」「反撃する力をもった」いじめられっ子だったからよかった。
だから観客もすっとするし、思いきり笑って拍手できる。

でも、やっぱり、こわいネタだと思うよ。
みんな、あの教師みたいなところ、絶対ないって言えないんじゃないかな。
「関町だから笑っていい」
そんなラインも、ライスのお客さんは守れるけど、この先はどうだろう。
そんなことを、ふと考えてしまいました。

省(SHOW)エネルギー

そんな「いじめ」のすぐ後にこんな無茶苦茶なネタを出してくるのだからライスはずるい。

真っ暗な舞台、スポットライトの当たる関町とランニングマシーン。
関町が走ると、舞台に灯りがともる。
走るのをやめると、灯りが消える。
その仕組みを観客が理解したところで、マジシャンに扮する田所が登場する。

田所さんが観客を味方につけて、関町さんをいじめ抜くだけのネタ。
いや、味方、じゃないな。加担です。
気づいたときにはもう、片棒を担がされている。

このネタで関町さんは、やむなく、汗だくかつ疲労困憊に陥ります。
しかし、そんな「単独ライブ中にあってはならない」状況を、ライスは逆に次のネタに生かす。
次のコント、関町さんのそれなしでは成立しないし、あんなに笑いは爆発しない。

ねえ、どこから作ったの?
こんな、糸端を引っ張ったらするする全部ほどけてゼロになるようなライブを、彼は、彼らは、どうやって織り上げるの?

そんな次のネタがこちら、

その後の二人

田所が関町に贈った誕生日プレゼント。
それによって、関町は危うく死にかける。
そこに訪ねてきた田所。

「うっわ、お前大丈夫か!」
「……おっぱいをもむのは、いくらですかー」
「とりあえず、これ飲めって!」

田所は諸悪の根源のスイッチを切る。
一息つくふたり。

田所は関町のために誕生日ケーキを買ってきたという。
しかし、途中であまりに「ケーキを捨てたくなる」ベンチを見つけて、そこに置いてきてしまったのだという。

ケーキが食べれず落胆する関町。
気を取り直して、借りてきたDVDでも見ようぜ、と提案する田所。

「これ、昔見て面白かったやつのリメイク版なんだよ」
「へー。それはそうと、俺なんかまだ気持ち悪いんだけど、お前ほかにも何か仕出かしてねえだろうな?」

リメイク

1公演目「犯人からの電話」

商店街の各店に爆弾を仕掛けた。
金をよこさなければスイッチを押してやる。
では、その仕掛けた店名は……

2公演目「借金がある関町」

仮想通貨で大儲け。
バブルがはじけてダメージジーンズのダメージがヤバすぎることに。

3公演目「勇者とチャーリー」

勇者の衣装が豪華になりすぎて最初チャーリーだって気づかなかった!
チャーリー、久々に会えてとても嬉しい。
相変わらず、かわいい。

タイトル通り、どれもこれも昔無限大ホールでよくやっていた懐かしネタのリメイク版。
動画で残っているのも多いので、劇場で見たことがなくとも「あれか!」となる人がほとんどだったはず。

かく言うわたしも。
懐かしさと、面白さと、嬉しさと。
どうかYouTubeにあげてほしいな。

賄賂

田所さんが「省(SHOW)エネルギー」以上に好き勝手やりまくるネタです。
そう、あれで終わりではなかったのだよ……!

着物がはだけすぎているので、ちゃんと着なきゃ駄目じゃんね、エロさが足りないね、と思いました。

ぽい

また一味変わって、ポップなネタ。
一つのコントで二種類のライスが楽しめます。おいしい。

ライスはデフォルメがよく似合う。
顔とか、そういうのじゃなくて、キャラクターのデフォルメ。
わざとらしいキャラクターもすぐに自分たちのものにしてしまう。
そのくせ、ただの演技は、かっこいい。

イクイク天国

中身の素敵さをごまかすためにひどいタイトルをつける癖はやめたほうがいいと思うよ。
(いろんな人に言いたい)

交通事故で死んだ初老の男と、彼を天国へ導く案内人のお話。
昔、自分の不義理が原因で別れた妻がいて、けれど今でも好きな気持ちは残っていて……

実は、幸子さんも一年前に。
幸子さん、あなたと別れてから結婚しなかったそうですよ。

「オプションをお使いになられますか?今から一時間だけ、現世の好きなとき、好きな場所に戻れます。期間はあなたが死んだときから前後三年以内です」
「それを、あいつも……?」
「申し訳ございません。そこまではお伝えできないのがルールです」

それでも案内人のウインクに促され、男は現世に戻った。
彼女の誕生日、約束の桜の下へ、
しかし。

「こない、だと……!?」

彼女が来ない、一人きりのまま、男は気づく。
これは、桜の木ではなかったのだ。
しかし正しい場所に行く時間はもうない。非情にも、時間終了五分前を告げるアラームが鳴り響く。

諦めた男はアラームを止めた。
しかし、止まらない。
アラームが鳴り続ける。
壊れたのか?耳元に時計を寄せる。

……鳴って、いない?

男は全てを理解する。
そして、ただ待つ。

「残り、五分だけになってしまったね」
「だから、ちゃんと花の名前を覚えてくださいって言ったのに」
「次会うときまでには、きっと、覚えておくよ」
「もう……」

あなたって、いつも、嘘ばっかり。

その後の二人、の少し前の一人

花吹雪にさらされた一脚のベンチ。
そこに駆け寄る青年が一人。

「ん……?」

彼はケーキの入った箱をそこに置いた。
(だって、ケーキを捨てたくなるベンチ、だったから)

そして、良いことをしたな、と満足そうな顔になり、いつだってそのまま彼を受けとめてくれる友人の元へと、駆けていったのだった。

終わりに

ライスの単独ライブが好きなのは、とても面白いから。
コントも音楽もポスターやグッズも素敵だから。
二人の楽しさが伝わってくるから。
何が欠けても完璧じゃなくなる、完成された90分だから。

いつもあまり多くを語らない二人だけど、今回の終演後は、少しだけたくさん話してくれました。

「お前、ひどいよ。お客さんまで一緒になって。全員顔覚えましたからね」
「だって、お前が『おれ、走れるよ?』って言ったんだろ」
「いや、それは違う。違わないけど、そんな言い方はしてない。誤解を招くからやめろ」

3回公演累計30分近く走り続けた関町さん、本当にお疲れ様でした。
あのコントでの本気のシャウトは、なかなか聞けるものではないので良かったです。

田所さんもすごいね。
やっぱりあなたの頭の中が見てみたい。

今回は小さなライスがポスターや絵本などいろんなところに散らばっていたこともあって、ライスってかわいい。
なんてことを、いつもよりたくさん(正当化された気分になって)考えてしまったような気がします。

こんなに、すごい人たちなのにね。
きらきらしてる。
どうか末永く、なんてことは言わない。

どうか、未来永劫、ライスが続きますように。