14/7/13 神保町花月『ロシュ・リミット~奇抜探偵・四条司の婉然たる面影~』

ライス

 『ロシュ・リミット~奇抜探偵・四条司の婉然たる面影~』
 14/7/1~17 神保町花月
 脚本:福田晶平
 演出:足立拓也(マシンガンデニーロ)
 出演:囲碁将棋/タモンズ/井下好井/ライス/相席スタート/松田百香
 神保町花月が贈る本格推理芝居第六弾!
 貴方はこの物語の真相に辿り着けるか!?

~ロシュ限界(ロシュげんかい、英語:Roche limit)とは、惑星や衛星が破壊されずにその主星に近づける限界の距離のこと。その内側では主星の潮汐力によって惑星や衛星は破壊されてしまう。~
「ロシュ限界、って知ってますか?」
「当然。この僕を誰だと思ってるの?」
***
ユニットITIによる、シリーズ物の本格推理芝居。前から評判がよいので気になってはいたけれどなかなか行くまでには至らず、今回ライスが出演ということで、初めて行ってきました。
ミステリーは大好きなのでそういう意味でも楽しめたし、お芝居としてもとても良かったです。以下つらつらあらすじと感想など。
警視庁。刑事の煙山(囲碁将棋・根建)はとある連続殺人事件に頭を悩ませていた。公式には発表されていないがシリアルキラーの犯行。今までの3人の被害者は全て鋭利な刃物で胸部を刺され失血死しており、身体にローマ数字のⅠからⅢが刻まれている。
そして起こった4件目の事件。今度の被害者は、3件目の遺体発見者である大学教授の蓮見(ライス・田所)研究室に所属する南雲亜希。彼女の身体にもまた「Ⅳ」の数字が刻まれていた。
霊安室にて悲痛な面持ちで立ち尽くす准教授の南雲(ライス・関町)。彼もまた同じ天文学研究室に所属し、そして被害者である大学院生亜希の、一か月前に結婚したばかりの夫であった。「なぜ亜希が殺されたんだ。彼女が殺されなければならなかったんだ?」、自問する南雲。彼は独自に妻を殺した犯人を突き止めることを決意する。
一方、煙山の方は大学時代の友人である私立探偵・四条司(囲碁将棋・文田)に捜査協力を依頼したが、やはり調査は難航。被害者同士の関連性は全く見つからず、唯一の接点は蓮見と亜希のみ。しかし、蓮見には第3事件の犯行時に遠方の学会に出席していたアリバイがある。らちが明かない状況ではあるが、煙山、四条は蓮見・南雲天文学研究室に事情聴取に赴くことにする。
その頃までに南雲は、研究室の面々から亜希に関する様々な情報を手に入れていた。研究室の男性陣、相田(タモンズ・安部)、崎本(タモンズ・大波)、日下部(相席スタート・山添)がいずれも亜希に好意を寄せていたこと。一方、亜希亡き今唯一の女性である立涌(相席スタート・山崎)は南雲に好意を寄せており、それが原因で亜希と諍いになった過去があること。蓮見が一連の事件に関心をもって調べていたこと。また、彼がいかにも個人的な用件で亜希と話している様子があったこと……
約束の日時、煙山と四条は蓮見・南雲研究室を訪れた。授業が入っており、蓮見はまだ戻ってきていないという。場所は南雲の部屋を使わせてもらうことにし、一人ずつ事情聴取が始まった。新たに判明した情報は、南雲も掴んでいた研究室内の人間関係及び、蓮見が出席していた学会には風邪をひいていた亜希以外全てのメンバーが出席しており、全員に同様のアリバイがあること。蓮見はまだ戻ってこない。また南雲も姿が見えない。
と、四条がひらめく。助手の宗助(井下好井・好井)に指示し、走らせる。また、鑑識の竹下(井下好井・井下)にも何やら指示を。そして、「もう間に合わないかもしれないが……」とつぶやく。
得てして、間に合いはしなかった。「屋上で、蓮見理士教授の遺体が発見されました。死因は鋭利な刃物で胸部を刺されたことによる失血死、身体にはローマ数字の『Ⅴ』が刻まれていました」。
以上が事件の全容。
そして、奇抜探偵・四条司からの挑戦状は、「シリアルキラーはこの中の誰であるか?」
2分間の推理時間が設けられる。
後半、解決編。
まず、鑑識の竹下により、血の付いた白衣と刃物が早々に発見される。
「蓮見教授を殺したのは、南雲准教授、あなたですね」。どよめく研究室と「嘘だ」、と呟く立涌。
「今回の遺体にはローマ数字の『Ⅴ』が刻まれていた。しかし、一連の殺人事件について、シリアルナンバーがふられていたことを知るのは関係者のみ、つまり、発見者及び被害者の家族のみ。つまり、亜希さんの夫であるあなたしかいない」
亜希を殺した犯人が蓮見だと突き止め、屋上で言い争いになった二人。「初めて殺人現場を見たとき、そのあまりの美しさに感動したんだ。だから自分でもやってみたくなった。だから『どうしたらできる?』と亜希くんに聞いてみた。彼女は私に気づかれていたことに戸惑っていたよ。そして、あろうことか私を刺し殺そうとした。だから、彼女で試した」悪びれもしない蓮見。南雲は彼を怒りに任せて刺した。
「そう、亜希さんを殺したのは蓮見教授。でも彼はシリアルキラーではない、アリバイがある。遺体に数字を書いたのは真似をしただけでしょう。じゃあ、一連の犯行を行えたのは誰か?唯一アリバイがない、彼女しかいない」
つまり、前三件の殺人を犯したのは亜希。蓮見は遺体発見時に亜希の姿を見かけ、疑ったと。いっそうどよめく研究室。「嘘だ、彼女がそんなことをするわけがない!」「南雲先生!奥さんがそんな罪をかぶせられて何で黙っていられるんですか!」
「……知っていたよ、彼女が殺人犯だと」
知ったときには、愛してしまっていた。
理性なんか感情で吹き飛んでしまった。
彼女にとって殺人が自然なことであるなら、どうして自分がそれを止める権利がある?
……そんな彼女といるうちに、僕もとっくに、躊躇なく殺人を犯せるほどに、狂ってしまっていたんだ。
「あなたは狂ってなんかいませんよ」、投げかける四条。「大事な人を殺されて、恨みを持つのは普通の感情だ。あなたは、彼女とは違う。真っ当に罪を償って、帰ってきてください」。
連行される南雲。一連の事件はこうして終わりを迎えた。
***
とある大学の研究室が舞台だった今回のストーリーは、推理こそシンプルなものの、だからこそ主人公?夫妻をめぐる愛憎劇とか、天文学とか、屋上とか見上げた星空だとか、そんな色々がロマンチックに引き立ってました。
っていうか、理系大学での「世離れした准教授」と「ぶっとびキレキレの女子院生」のラブロマンスミステリだなんてそれなんて森博嗣……!って感じで非常にニマニマしました。S&Mシリーズそのものじゃん!そんなのキライになれるとでも!?
あ、というわけで今回の設定が好きだった方には「すべてがFになる」から始まる同シリーズおすすめです。大丈夫、ヒロインは推理する側でナンバリング殺人とかしないから!
今回すっごいよかったなーって思ったのは、推理パートがあるから必然的にストーリーに割く時間が減るんだけど、それなのに何だかぞくぞくする魅力が垣間見えたなってことです。そのよくわからない魅力の源泉は、「雨プラネット砂ハート」のときもずんずん感じたから、福田さんのパワーなんだろうなあって思いますが。
それに加えて探偵側チームも興味深いでしょ?私今作しか見てないけど、今までの話からみてたらそりゃもうって感じじゃん。こりゃみんな好きになっちゃうね!ということで、きばたん人気の理由がよくわかりました。
それにしても切ないストーリー、というか切ない関町さんだったな、と思いました。亜希が結婚を申し込まれて「私でいいんですか?」って聞いたのは「私殺人犯ですけどそれでもいいんですか?」ってことだろうし、「もちろん」って答えた南雲さんはそのこと知ってたんだし。案外、亜希がこっちにきてから人を殺して更にナンバリングまでしてたのって「人は死んだらお星さまになるから彼の好きなお星さま増やしてあげるの!あと私も彼みたいに数字の名前つけて好きなもの覚えるの!」っていう乙女チックなあれじゃないかなとか思ったりする。