キングオブコント2016(ただのライスファンの日記)

ライス

ただのライスファンの日記です。ご容赦ください。

***

8月にとあるライブを見に行った。
もう何年も一緒にライスを応援している友達と行った。
帰り道、歩きながら私は言った。

「キングオブコントの決勝、一緒に見ようね。……って言おうと思ったけど、そういえばまだ準決勝すら始まってなかったね」と。

そして二人で顔を見合わせて笑った。

そしたら、本当に、ライスの二人は決勝戦に進んだ。
これまで何度もだめで、ときには二回戦、いや一回戦ですらだめで、すねて、へこんで、なかったことにして、そんな姿をたくさん見てきた。

その間いつしか、シュール5や泥の4組がすきでフォローしてきたはずのツイッターのタイムラインは移り変わって、みなライスから、いやお笑いからも離れていってしまったように見えた。

それがまさしく、9月9日、9期の日。
ライスシャワーのように誰も彼もがライスの名前を口々に叫んだ。

「俺たちにチャンスがあるとしたら、決勝に初めて進めたとき。しかも、同期かつ知名度のあるしずると一緒に行けたとき。そこしかない、と思うんです」。

二人の声が耳元で蘇る。

ねえ、そうなってるよ。
最初で最高の舞台が整っちゃったよ。

それから決勝までの数週間を私はあまり覚えていない。ただ、

「来年は、出ません。だって今年……優勝するから」

本人も思わず照れ笑いでごまかした関町さんの台詞が、頭の中でこだまするだけだった。

家族には悪いけれど、ライスファン以外の人と見られる気がしなかった。

おそるおそる「どうしても集中して見たい番組がある」と申し出ると、一歳の息子も連れて家を空けてくれた。心から感謝した。

ずっと一緒に見てきた友達を呼んだ。
音信不通だったあの子も連絡をくれたから「きなさい」と言った。
遠くに引っ越してしまったあの子とは、ビデオ通話することに決めた。

とうとうやってきた10月2日。外に出る。

今年初めての、秋晴れの空。

そういえば二年前も同じことをするつもりだったのだ。
犬の心が初めて決勝にいけたとき。

あの時もふわふわしていた。
無限大でくすぶっていた人たちの夢のひとかけらに思えた。

しかし、ちょうどあの日、台風がきた。
友達はこれずに一人で見た。
さびしかった。

今日は違う。
一人ではない。

まるで単独ライブの直前のように、いやそれ以上にぞわぞわした。
緊張のあまり吐きそうだ。

集まった三人で黙々とオムライスを食べた。
事前番組をリピートしながら。
関町さんのお子さんがとてもかわいくて少しだけなごむ。

食べ終わると、あっという間に直前番組が始まってしまった。
今までのキングオブコントのベストネタということで、どれもとても面白い。
面白くないわけがない。

バイきんぐの優勝回、そういえば録画ですら見ていなかったな、と気づく。

「なんて日だ!」

そうだ、今日は、なんて日なんだろう。

……どんな日に、なってしまうんだろう?

息を詰めて見入る。
とうとう始まってしまった決勝本番、ファーストステージ。

気がついたらしずるの二人がステージにいた。
一瞬で空気を自分たちのものにする。

素敵なネタだ。
そう、どんなに観客が緊張していたって面白いネタは面白い。
大井競馬場で私はそれを知っている。

ラブレターズはしずると真逆のテイストのネタ。
事前評判を聞いていたので、なるほどこういうことか!と唸る。

とにかく聞きほれる、見ほれる4分間。
あっという間に終わってしまう。

かもめんたる、元王者だ。
単独ライブの中の一本、みたいな。
この世界観をテレビの画面越しに飲み込ませてくれることがすごい。

点数はしずるの一点上。
あ、と声が漏れた。

かまいたち、こんなくだらんボケでよう笑わしてくれるなあ。
点数がでて山内さんの「ここで大会終わればいい(優勝)」にも笑った。
だんだん意識が上の空になっていく。

ななまがり、シュールなコントが続くなあ。
最初「大丈夫かこいつら」とやはり思ってしまった。
そして見事に裏切られた。
終わった今、一番思い出すのは、ラブレターズと並んで左利きのナス。

ジャングルポケット、あ、ちゃんとしたコント、と思う。
安定のジャンポケ、安定のCHS(ちょっぴり禿げてるサイトウ)。

点数はがつんといった。
本日二度目の「あ」が漏れた。

これが上に行くって……

ライスどうなの?
そしてしずるはどうなる?

不安がよぎる。

だーりんず。
VTRで「バイきんぐにつづきたい」と聞いていたら親子設定のコント。
直前番組で優勝ネタが流れていたのをもったいない、と感じてしまった。

タイムマシーン3号。
M-1でぎりぎりのところで落とし続けて、とてもつらかったのを知っている。
それが、同じことをやっているのに、今日はなんてのびのびしているんだろう。
もう、彼らには永遠に面白くいてほしい。

タイムマシーン3号の点数はしずるの上に行った。

そして気づいてしまった、二組同時にファイナルへは行けないこと。

ジグザグジギーがしずるより高い点数を出してしまったら、戦うことすら、かなわないこと。

息をするのも忘れて見入った。
ジグザグジギー、夕飯タイムにこれはどうよというコント。

飯屋が舞台だから必然的に連なる「ライス」のワード。
壮大なフリだと思おう。
点数はどうか。あまり伸びない。

よし、しずる残った。

ということはつまり――

同期、一騎打ち。

あおりVはピース又吉さんとゴールデンボンバーの鬼龍院さん。

「やっときたか」
「同期で一番面白かった二人」

最大限に盛り上げてくれた。

地デジ未対応なんじゃない?なんて揶揄われていたくらいテレビに出ていなかった二人の、これ以上ない大舞台が、とうとう始まった。

電話口で一人喋る関町さんからスタート。
金持ち屋敷の性格悪そうな主人。

そして、侵入者の田所さん。
端的な掛け合いで、状況がたちまち明確に。

「元締めの名前を吐け。さもなくば、殺す」

銃口を向けられ、関町さん絶体絶命の大ピンチ、かと思いきや……

……笑う前に、まずほっとしてしまった。
テレビの中が、笑いに包まれたから。

関町さんが椅子に頭をぶつけたときにはハッとなった。
アドリブだ、と気づいたから。

CMまたぎ直前の関町さんの笑顔が蘇った。

こっちを見て、不敵な笑い。
見ててよ、と言わんばかりの。

ああ、二人はプロなんだ。

これまで立ったことのない舞台でも、普段やっていることを愚直にやるだけ。
そのいかにも簡単そうなのに、プロにしかできない仕事。

もしかして。もしかすると。

身じろぎもできない。得点を待った。

設楽さん、高い。
それが、二人、三人……

え、全員?

嘘でしょう?一位だ。
タイだけど、一位だ。

しずるじゃない、ライスが勝った、いやそれどころじゃない、一位に立った?

テレビの画面から現実に戻る。
三人で顔を見合わせ、言葉にならない言葉しか出てこない。

テレビにライスが出てた。
テレビでネタをやってた。

めちゃくちゃ面白かった。みんなが笑っていた。

バナナマン、さまぁ~ず、松本さん。
一人残さず、ライスのコントを見て、笑っていた。

不思議な浮遊感のまま、ファイナルステージが始まった。

まずは、しずるに一点差で競り勝ったかもめんたる。
一本目よりさらにエッジの効いた応酬。
最初は二人のやり取りを見ているだけだったのが、しだいに引き込まれて自分も車内に引きずり込まれてからはあっという間だ。
全ての台詞に感情が持っていかれる。

タイムマシーン3号は、山本さんの台本の読み方が何かに似ている……と思ったらとても気になってしまった。まだ解決していない。
それにしても「動けるデブ」ってなんて素敵で愉快な存在なんだろう。

かまいたち、今回ライス以外で初めて見たことのあるネタだった。
以前に見たときのほうが、山内さんがもっとあざとく面白かった気がしてしまう。
それにしてもライスの二本目を次に控えて、居ても立っても居られない。

そして、とうとう始まってしまった。
同率一位だったけれど、先手はライスだった。

舞台は喫茶店。
グラスを落とした店員の田所さんと、びしょ濡れで文句を言う客の関町さん。

なかなかお客さん絡んでるなあ、店員さん大丈夫かなあと思いながら見ていると、

「なんだ、その態度は。俺が悪いって言いたいのか?」
「いえお客さま、けっしてそのようなことは……」

しかし、そのようなことがあったのだ!

ネタがばらされ、わっと笑いが起きた。

その盛り上がりを肌で感じて、ああ……やったんだ。
ただ感じた。

結果がどうなるかなんてわからない。
しかし彼らは、昨日までこの世界にまったく存在しなかった何か、を、とうとう成し遂げたんだ、と。

一本目でも見なかった、高い得点が出た。

「面白い。なぜ評価されてこなかったんだろう?」

二人と一緒に泣きそうだった。

そして、ついに最後のジャングルポケット。

もはや無の境地だった。
受けてるのかどうなのか全くわからなくて、面白さってなんだったっけ?みたいなことまで考えてた。
こんな状態で得点を付けなきゃいけない審査員つらいとか、わけのわからないことも思ってた。

斎藤さんの寿命と同時にコントも終わった。
運命を決める得点を待つ。

設楽さん。思ったより低め。
うそ、これいける?

でも日村さん高い。
三村さんも大竹さんも高い。

あ、松本さんこんなに高かったの初めて。

え、大丈夫?大丈夫なの?

……合計点。

あ、いった。

ジャンポケじゃない。ライスだ。

ライスが勝った。
キングオブコントで、決勝戦のファイナルステージで、ライスが一番を取った。

泣くよ、泣いたよ。

二人の顔が、二人ともくしゃりとつぶれるのを見て、あ、うれしいんだ、こんなにうれしいことがこの世界に残ってたんだって、胸がぎゅうっと握りこまれて、涙が少しずつ目からにじんだ。

見たことない二人の表情で、ここは誰も知らない世界だった。

下手くそなハグにハイタッチ。
決勝進出のリアクションと同じように、ひょっとしたらこのシーンもシミュレーションしてたりしたんだろうか。

「優勝おめでとう!なにか一言!」

田所さんが手ぶりで関町さんを促す。

「褒めてくれえーい!」

やったぞ、でも、祝って、でもなく、ほめて、だった。

泣きながら笑った。
でも、ちょっぴり、せつなくもなってしまったのだった。

そのままふわふわし続けて一週間。

新聞も買ったのに、テレビでも見たのに、まだ実感がわかない。
ずっと夢の中にいるみたいな気分だ。

ライスが、ライスに、こんなに報われる日が来るなんて。

好きでいてよかった。ライスが、大好きだ。

今は、ただ、それだけだ。