09/8/22 神保町花月『夕立の忘れ物』

 『夕立の忘れ物』
 09/8/18~23 神保町花月
 脚本:白坂英晃
 演出:白坂英晃
 出演:パンサー/ミルククラウン/ふくろとじ/石井あす香


充実感の大きい、それでいてあとに爽やかな疑問も残る、いい舞台でした。
と思っていたら公演時間がたった1時間10分ほどでびっくり。短め。
うまく演者さんの特性いかした配役だったなーと思いました。
特にパンサー尾形さん。
なんとなくジャンポケ武山さんのような出来ない子イメージを持っていたら、全然違った。

彼女と森をめぐるお話。
主人公は鉄平ことパンサー尾形さん。
2年前になくなった奥さんの実家をたずねてみると、そこには時空のゆがむ森がひかえていた。
森から人の未来を読むことができたらしい彼女。
ちょうどその家にいた青年とともに、10年前の過去に飛ばされた彼は、「彼女が死ぬ」未来を変えるべく、時空のゆがみに流されてゆく。

***
実花は2年前に死んだ。
彼女は自分の実家について何も語らなかった。
おれはそんな態度に何か疑問でも感じたのだろうか?
背後に森をひかえる実花の実家へ、今更ながら訪ねていった。
彼女の痕跡はあった。
アルバムには俺の知らない彼女の過去がうつっていた。
家には彼女の兄がいて知らない人も多くいた。
その中に彼が保護したという、変な少年が一人いた。
「この森はこの家のものだから迷い込んだ人を一時的に保護するのもこの家の役目なんだ」
アルバムを眺めていると夕立が降り出した。
その少年は語りだす。
「ぼく、きいたことあります。この森で夕立が降ると、なにかおかしなことが起こるって……」
そして俺と少年は、10年前の冬のある日へ飛ばされた。
***

・鉄平…パンサー尾形
2年前に死んだ妻の実家を訪れる。
5歳の息子がいる。名前は健太。

・実花…石井あす香
母方の家系から引き継いで、森の言葉をきく能力を持ち、人の現在が見えたり未来が予言できたりする。
10年前より、森の再開発計画に反対していた。
2年前に交通事故死する。

・洋…パンサー菅
実花の兄。
村の将来のために森の再開発計画をすすめる。

***
目が覚めてみると寒かった。
少年が新聞を持ってかけてくる。
「どうしよう、鉄平さん!ここ、10年前ですよ!」
最初は信じられなかった俺も、生きている実花の姿を見ると呆然とした。
……俺たちは「森で保護された者」としてこの世界に普通になじんでいる。
***

・花田…ミルクラ竹内
洋の昔からの友人。
森の再開発計画をすすめる。

***
そして俺は気づく。
「俺と出会った過去をつくらなければ、実花は、死なないですむんじゃないのか?」
***

・歩…ジェントル
10年前は女性の格好をしている。
実花のことが好きだが、告白する前に心を読まれて振られてしまう。
彼女から「将来守るべき女性があらわれる」という予言を受け取る。

・新谷…てっちゃん
実花の元彼。
暴力的に彼女につきまとうが、最終的には鉄平によって追い返される。

***
夕立のたびに現在と過去を行き来する。その間わかったことがある。
実花は森の言葉をきき、未来を予言することができたんだ。
そして彼女はそんな森を再開発から守りたいと思っていた。
その一方で彼女は自分の能力に苦しんでもいた。
俺が彼女のためにできることは、何なんだ?
***

・田沼…けんちゃん
10年前、森で自殺しようとしていたが、実花の予言によって一命をとりとめた。
奥さんと子どもを不条理な事故で亡くしている。

***
実花は俺に何度も、
「初めて会った感じがしない」
と言った。
そんな彼女に俺はついに、告げてしまったのだ。
「俺も、予言ができるんだ。聞いてくれないか?」

「君は、これから、絵の勉強をするために東京に行く。でも芽がでなくて、数年で諦める」
「なにそれ、ひどい」
「そこで君はある男と出会う。どうしようもない、どうしようもない男だ。でもそいつと君は結婚する。生活は厳しかったけど、二人はずっと一緒に生きていく。そして、子どもが一人生まれる。今から五年後のことだ」
「なにそれ……」
「それからさらに三年だ。君の絵はここにきて初めて、世間に認められはじめる。そして個展が開かれる。君は夫と一緒に車に乗って会場に向かう。その途中で、車は事故にあうんだ。男は生き残って、君は死ぬ」
「何いってんのよ……」
「そうだよ、君は死んじゃうんだよ。東京に行っちゃいけない、ここに残れ。どうしようもない男なんだ。君はあの男と会っちゃいけないんだよ。そんな未来をつくっちゃいけないんだ、君が死なないためには!」
***

・タクヤ…パンサー向井
鉄平と実花の息子、健太の15年後の姿。
幼い頃に母を亡くす。
父と母の結婚二十周年の日、「これが俺へのお祝いになるから」と父に頼まれ、この森にやってきた。

***
「……それで、私は、幸せだった?」
「え?」
「そういう人生を生きて、私は幸せだったのかな」
「……わかんねえよ」
「じゃあ、その男の人は?彼は、私と生きていて幸せだった?」
「……幸せ、だったよ」
「そうか」

「それでも、東京に行くのか?」
「うん」
「ならせめて、絶対にあの日、車にのるなよ。絶対、のるなよ!」
「……うん」
***

鉄平はそして現在へと再び時空を越える。
興奮して周り中にたずねてみるが、実花が死んだ事実にはなんの変化もなかった。
彼女を救えなかったことに憤る鉄平。
しかしそんな彼のもとに実花の亡霊が現れる。
「なんでお前、車のっちまったんだよ!言ったじゃねえか!」
「……忘れちゃった」
実花は恥ずかしそうに笑うだけだ。
彼女と彼は黙って目を、見つめ合わせる。
「……さようなら」

これでお芝居の内容についてはおしまいです。
ぶっちゃけ1週間以上たっちゃったので最後どんな風に終わったとか、空気感しか覚えてないです。伝えられない日本語力の弱さよ……
半年もライブ色々見てきてようやく気づいたことは、自分が、ストーリー性があって行間の読めるものが大好きだということです。
今回のお芝居はそういうものだった。
何かというと、たとえば実花の予言能力がどこまであったのかとか、鉄平の正体にどれほど確信を持っていたのかとか、自分の会った人と再び会い結婚する気分ってどんなだったのかとか、劇中ではあんなにも素敵な終わり方をしたにも関わらず、鉄平はそれでも実花を救えなかった気持ちを抱えていたんだなってことがタクヤの存在でわかるってこととか、タクヤは
まだ見ぬ母親に何を思いここまできたんだろうとか色々です。
タクヤの心情がほとんど描写されなかったことで、そこに関しては考えたい余地がたくさんある。
あんま長くぐだぐだ言ってもしゃーないのだけれど、今感想書きながら泣きそうになるくらいには好きなお話でした。
よかった。